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科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第21回 タコが引っ付くのはなぜ?

2017.11.06 更新

タコ。
どんな料理にしても美味しい食材です。寿司やお刺身にして生で食べるのも良いものですし、煮物やなべ物、しゃぶしゃぶ、天ぷら、炊き込みご飯でも美味しく食べることができます。そして、タコといえば、タコ焼きは外せませんね。干物にしておつまみとして食べるのも良いですし、わさびと和えても美味しい。日本では昔から親しまれている、誰もが口にしたことのある馴染み深い食材、身近な生き物です。
私たち日本人にはお馴染みのタコですが、世界的に広く食べられているわけではないようです。ある地域ではデビルフィッシュ(悪魔の魚)と呼ばれ、食べてはいけないもの、不気味な生き物と捉えられています。これは宗教的な教えから派生しているようですが、馴染みがなければタコは不気味でグロテスクな見た目ですから、到底食べるに値するものではないと捉えられているのではないかと思われます。タコにまつわるこんなエピソードを聞いたことがあります。
日本の大学に留学している海外からの留学生が、「タコを食べた」と母国の親御さんに手紙に書いて送ったところ、タコを食べるほど困窮していたのかと心配し仕送りを増やされた、と。
そういえば、古典的な火星人のモデルもまたタコですね。日本人の感覚だと、タコはにょろにょろして、どことなくおどけている印象がありませんか。ですから、タコ型の火星人に恐ろしい印象は全くなく、仮に攻めてきたとしてもタコ焼きにして食ってしまえばいい、程度の認識です。しかし、タコを禁忌する地域の人にとっては生理的な拒絶感を伴う気味の悪い姿なのでしょうね。

タコといえば、関節がなくてにょろにょろした8本の足が特徴的です。そして、その足にはたくさんの吸盤が付いていて、その吸盤で引っ付く生き物です。
思い浮かべてください、自然界で引っ付くことができる生き物は珍しいです。他にはなかなかいないのではないでしょうか。引っ付く能力を持つタコという生き物。ではどうやってタコは引っ付くことができるのでしょうか?
その秘密は、吸盤の中にあります。吸盤の中には隙間があり、この隙間内部の圧力を減らすことで、水圧によって押し付けられる状態になるのです。
これは、ガラス窓やタイルにくっ付けるビニール製の吸盤と原理は全く同じです。ビニール製の吸盤も、吸盤の中の隙間の圧力を減らして、気圧によって押し付けられています。真空にした容器のフタが容易に開けられないのと同じ原理でもあります。
タコが吸盤を使って壁などとの間の圧力を下げることで、水圧に押し付けられます。そうすることで、タコは壁などに引っ付くことができるのです。タコ自らの力ではなく、外の圧力、水圧を利用して引っ付いているのです。
タコが引っ付くのは、圧力のなせるワザで、非常に物理的な現象なのです。
圧力差あってこそ引っ付くタコですから、圧力のない世界、たとえば宇宙では引っ付くことができません。火星は宇宙同様とても圧力の小さな場所です。ですから、タコ型の火星人がいたとしても、彼らの吸盤は使い物にならないでしょう。

タコの引き合いに出される生き物といえば、イカ。とてもよく似ていますよね。同じく関節がなくてにょろにょろ。違いといえば、足の数が10本あるということです。足には同じく吸盤があります。どちらも吸盤を使って引っ付くことができます。
でも、実はイカとタコの引っ付く原理は違うのです。これはそれぞれの吸盤の構造が根本的に違うからなのです。
イカの場合も吸盤と呼ばれていますが、実のところ引っ付くものではないのです。イカの吸盤の内側にはギザギザしたカギ爪付きのリングが挟まっていて、そのカギ爪が食い込むことで引っ付くことができます。
スルメを食べる時、料理をする時などを思い出してみてください。イカの吸盤から丸いリングがポロリと落ちることがあるはずです。タコの吸盤からリングが落ちるのを見たことはありませんよね。タコにリングはないのです。イカのこのリングこそが、イカが引っ付くことができる理由です。

タコは圧力差という物理現象を利用して引っ付いています。よく似た生き物のイカは、同じような吸盤を持ちながらも、引っかけるという極めて直接的な方法で引っ付きます。物理を操る頭脳派のタコ、力づくの肉体派のイカ、実のところ両者はけっこう違っているのです。似ているのに面白いですよね。

これから真ダコの季節です。物理現象を利用して器用に進化したタコを、その生命進化の神秘と向き合いながら、美味しくいただきましょう。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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