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科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第19回 お月様が追いかけてくるように見えるのはなぜ?

2017.05.09 更新

夜空に浮かぶお月様。車や電車の中からお月様を眺めていて、どんなに遠くまで移動しても、どんなに速く移動しても、ずっと追いかけてくるかのように見えるのを不思議に思ったことはありませんか? 乗り物で移動していると街並が変わり、景色も変わっていくのに、お月様だけはどうして追いかけてきているように見えるのでしょうか。
これには2つの原因があり、1つは人がどれほど移動しても常に見ることができるため、そしてもう1つは自分と同じ速度で動いているように錯覚してしまうためです。それぞれについて説明していきましょう。

まず、人がどれほど移動してもお月様を常に見ることができる、ということについてです。
電車に乗っているときを考えましょう。電車に乗っているときに速く動いて見えるもの、ゆっくり動いて見えるものがあるのは、皆さんよく知っていることかと思います。例えば遮断機の横を通り過ぎるとき、線路沿いの木々を通り過ぎるとき、それらはあっという間に現れ消えていきます。一方で山や雲などはゆったりゆっくり過ぎていくように見えます。この理由を考えると、お月様の謎が見えてきます。
電車に乗って窓の外を眺めているときを図にして考えていきましょう。下図をご覧ください。

お月様が追いかけてくるように見えるのはなぜ

水色の部分が乗客の目に映っている景色です。水色に塗られていない場所は見えない部分です。視野の中にA・B・C、3つの物体があります。
Aは近くにあるもの、例えば遮断機や線路沿いに生えているススキや木々、駅のホームやベンチなどです。
Bは少し離れた場所にあるもの、例えば家や車、ビルなどの街並です。
Cは遠くにあるもの、山や雲、海に浮かぶ船などです。
電車はレールの上を移動していきます。右から左に移動していくとしましょう。少し移動すると、下図のようになります。

お月様が追いかけてくるように見えるのはなぜ

Aが視野の外に出て見えなくなってしまいました。BとCはまだ視野の中に入っています。Aは瞬く間に通り過ぎてしまうので、人の目には一瞬しか映りません。もう少し動くと、

お月様が追いかけてくるように見えるのはなぜ

Bの家や街並、ビルなどが見えなくなっていきます。遠くにある山並や雲などのCだけが依然見えていることになるのです。
このように、遠くにあればあるほど、こちらが移動しても視野の中にずっと入っていることになります。そのため、ゆっくり過ぎていくように見えるのです。
山や雲は離れているとしてもせいぜい100キロメートルでしょう。それでもとてもゆっくり過ぎていくように見えます。一方お月様は地球から384,400キロメートル離れています。圧倒的にお月様の方が遠いのです。そのため、見ている人がどれだけ速く移動しようとも影響されることなくお月様が見えるのです。その遠い距離のため、動いている人から見てもお月様が動いないようにすら見えるのです。実際はとてもわずかではあるものの動いているのですが、人の目には分かりません。これがどんなに人が移動しようともお月様が常に見えている理由です。

次はお月様が自分と同じ速度で追いかけてきていると感じてしまう原因です。
これを説明するためには、まず、そう感じる状況を説明しなくてはなりません。
そのために、また電車に例えてお話ししていきましょう。今度は2台の電車が並走している場合です。下図をご覧ください。すぐ隣の車線だと近すぎて周辺の景色が見えないので、少し離れたところにある車線と仮定します。

お月様が追いかけてくるように見えるのはなぜ

青い電車とオレンジの電車が同じ速度、同じ方向へ進んでいます。先ほどと同様に水色の部分が青い電車に乗っている人から見える範囲です。白い部分は見えていません。Aは電車から見えるホームや遮断機などの景色です。
少し電車が移動すると、下図のようになります。

お月様が追いかけてくるように見えるのはなぜ

Aが見えなくなってしまいましたね。青い電車から見て、オレンジ色の電車は視野の同じ場所に留まっています。でも景色はどんどん後ろに消えて行っています。だからこそ、オレンジの電車は自分を同じ速度で追いかけてきているとわかるのです。
人が自分のことを追いかけてきていると感じるのは、基本的に同じ速度で並走している場合のみです。これが錯覚の原因です。

さて、お月様の場合です。先に説明した通り、見ている人が移動してもお月様は同じ場所に留まって見えます。しかし、移動している人が見ている景色では、周囲のものが自分の後ろにどんどん過ぎていきます。そのため、お月様とオレンジ色の電車の場合では理由が全く異なるにもかかわらず、まるで同じ現象のように錯覚してしまうのです。つまり、実際には同じ速さで並走していないにもかかわらず、オレンジ色の電車と同じように、お月様が追いかけてきているかの様に錯覚してしまうのです。

お月様が追いかけてくるように見えるのは、人間の2つの錯覚が原因だったのです。人間の目と頭の仕組みは面白いものですね。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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