キノノキ - kinonoki

キノノキ - kinonoki:ナビゲーション

科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

科学で毎日を楽しくしませんか? ブック・カバー
バックナンバー  1...151617181920 

第17回 水は100度でなくても沸騰する

2017.03.27 更新

突然ですが、水が沸騰する温度は何度でしょう?
理科の授業では、水は100度で沸騰すると習いますから、「100度だよ、常識だよ」と答えてもらえるのを期待しながらの今回のお話です。それで、いきなり答えですが、水は基本的に100度で沸騰しません。

特殊な場所の場合からお話ししていきましょう。まずは宇宙です。
太陽系で最大の惑星である木星は、たくさんの月、つまり衛星を持っています。その月のうちの1つ、エウロパには水があり、数千メートルの深さの海があると最近の調査でわかってきました。
大きな輪を持つ惑星である土星も、たくさんの月を伴っています。そのうちの1つ、エンケラドスにも深さ数十キロの海があり、水があるようです。
エウロパやエンケラドスでは、水は100度で沸騰しません。沸騰する温度はおおよそ0度です。温度0度で、私たちが普段ガスコンロのヤカンに火をかけたときと同じように、ブクブクと沸騰するのです。
宇宙だから特殊というわけでもありません。もっと身近な地球上のお話をしましょう。
地球上でもっとも高い場所はエベレスト山頂です。高度は8848メートル、富士山の倍以上ある高い場所です。ここエベレスト山頂ではおおよそ71度で沸騰します。
人が住む場所でも沸騰する温度は変わります。ボリビアの都市エル・アルトでは86度で沸騰します。エル・アルトの高度は4150メートルです。
過去インカ帝国の首都があったペルーのクスコでも沸騰する温度は変わり、89度です。ここは高度3400メートルです。
南米エクアドルの首都キトでは90度で沸騰が起こります。ここは高度2850メートルです。
外国だけではありません。日本国内でも沸騰する温度は変わります。
富士山頂では88度で沸騰します。高度は3776メートルです。日本一標高の高い長野県茅野市は高度800メートルほどのところにありますが、ここでは97度で沸騰が起こります。そして、それ以外の高度が低いほとんどの市町村では99度~100度で沸騰が起こります。
このように、100度で沸騰する条件というのはとても限定されていて、地球上でかつ、海抜高度の低い地域限定のお話なのです。場所が変われば沸騰する温度はこんなにも違うのです。

どうしてこんなことが起こるのでしょう?
それは気圧が関係しています。気圧とは、空気が与える圧力のことです。普段生活していても気圧ってあまり身近ではありませんよね。テレビでニュースを見ていると、お天気のニュースキャスターの言葉の中に少し登場することがありますが、天気や気温のように私たちの生活に直接影響を与えないのであまり意識しません。
圧力とは何でしょうか。学生のころ理科で習った気がする? という程度のものなのではないでしょうか。圧力の概念はとても簡単なのですが、辞書などで調べてみるとわかりにくいのです。まずは圧力の説明から入っていきたいと思います。

例えば寝るときに布団をかぶります。1枚では大した重さは感じませんが、何枚もかぶると重いですよね。そう、これが圧力です。布団から受ける圧力ですから、「布団圧」とでも呼びましょうか。
同様に地球は空気をまとっています。それはあたかも空気という布団を何枚も重ねているかのようです。空気を布団に見立てて考えてみてください。空気には重さがありますから、空気の布団の下にいると、その重さが加わります。
エベレストや富士山の頂上などを想像してみてください。地球上で山の上など高いところに行くと、自分の上にある空気(布団)の厚さが薄くなります。なので、空気(布団)から受ける重さが軽くなります。つまり圧力が低くなる、別の言い方をすると気圧が低くなるのです。
そして私たちの暮らす海抜0メートルに近い場所の場合です。低いところに行くと、逆に覆いかぶさっている布団(空気)の厚みが増えますから、その分重く感じます。こうなると気圧は高くなるのです。

水は気圧が低ければ低いほど低温で蒸発し、高ければ高いほど高温で蒸発する性質があります。気圧が高いと水は押しつぶされ、水蒸気となって自由になることができないからです。水を押しつぶす力の弱い、高度の高い場所では、水は低い温度で沸騰するのです。
エウロパやエンケラドスは、空気がない場所です。空気がなければ気圧もありませんから、水を押さえつける力はなくなります。そのため0度で沸騰が起こってしまうのです。

ちなみに、「圧力鍋」という調理器具があります。これは宇宙の環境とは逆で、気圧と沸点を上手く利用し、水を押さえつけて沸騰しにくくするための調理器具です。圧力鍋の中では水は沸騰しにくく、120度くらいまで加熱しなくてはなりません。水分を保ったまま温度が高い状態で調理できるので、味が染み込みやすく、混じりやすくなるのです。
圧力鍋は丈夫な金属製の容器で、中身の気圧を上げることができるように作られています。圧力鍋内部の気圧は私たちの住む場所の2倍程度高いので、120度くらいにならないと沸騰が起こらないのです。

このように、100度で沸騰するのは地球上の海抜高度の低い地域に限定された、とても特殊な現象なのです。むしろ地球で当たり前に起こっていることは、とても特殊なことなのです。

バックナンバー  1...151617181920 

著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

ページトップへ