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科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第8回 ロマンと恐怖の彗星物語

2016.09.30 更新

映画『君の名は。』を観てきました。素敵な面白いお話で、映画館を出てから小説版も買ってしまいました。まだ観ていない方、おすすめです。
この作品では、重要なアイテムとして彗星が出てきます。彗星は「ほうき星」とも呼ばれています。名前の通り、ほうきのように長く広がった尾っぽをもっている星です。空に輝く星々は点ですから、尾っぽを持ったほうき星は極めて異色なものです。
しかも彗星は、私たちが毎日見ている夜空に突如として現れるイレギュラーな星です。現代に生きる私たちは、空に彗星を見つけたらちょっと嬉しい気分になりますが、昔の人には不安や恐怖を与えるものだったそうです。突如現れた不穏な星は、天からの怒りであると考え、祈祷などをして、降りかかる災いから逃れようとしたそうです。日本書紀やギルガメッシュ叙事詩、ヨハネの黙示録、中国の春秋などに彗星についての記載がありますから、東西拘らず、世界中の人々に影響を与えていたのですね。

こんなにも昔から観測されている彗星ですが、いったいいつからあるのでしょうか。その起源は、太陽系の始まりまでさかのぼります。
彗星が生まれたのは今から46億年くらい前のことです。太陽と地球、そのほかの太陽系の仲間たちもこの時に生まれました。彗星はいわば地球の兄弟のようなものです。46億年前、惑星は沢山の岩石が寄り集まって出来上がりました。小惑星はこの時惑星になることができなかった岩石のかけらです。惑星になることができなかった岩石のかけらは、海王星や冥王星より先の太陽系の最果て、カイパーベルトやオールトの雲まで吹き飛ばされました。
カイパーベルトやオールトの雲は太陽からとても離れているので、重力の影響がとても小さい場所です。太陽の小さな重力、そして小惑星同士の微小な重力の微妙なバランスの上で、小惑星たちは漂っています。しかし、あるとき何らかの原因でこの微妙なバランスが崩れることがあります。すると小惑星は太陽の重力に捕まって、太陽に引き寄せられていきます。これが彗星になります。

引き寄せられた彗星は太陽に落ちるのではなく、太陽に近づくほど速度を増して、太陽のすぐ近くをかすめて、速度を遅くしながら再び太陽系の最果てに戻っていきます。最果てまで戻ったら、再び太陽に近づくということを繰り返し楕円運動をするようになります。「〇〇年ぶりのなんとか彗星」などとニュースになるのはこのためです。彗星がこの楕円軌道を一周するまでの時間は何十年、時には何百年のこともあります。地球は一年で太陽の周りを一周していますから、それと比較すると途方もない時間をかけて旅をしているのです。

図解説 オレンジ:太陽 青:地球 緑:彗星

図解説 オレンジ:太陽 青:地球 緑:彗星

彗星は尾っぽを引いていますが、これは、彗星の性質である「太陽に近づく」ことが関係しています。彗星は汚れた雪だるまのようなものです。太陽に近づくと、その熱で溶かされてちり粒や水蒸気などのガスになり、太陽から放たれる太陽風で吹き飛ばされます。これが彗星の尾っぽになるのです。
彗星が進む方向の反対側に尾っぽが伸びると考えてしまいますが、実は進行方向と尾っぽの向きは無関係です。関係があるのは太陽の位置です。彗星の尾っぽは常に太陽の反対側に出ています。

46億年という長い時間の中で、地球では生物が目まぐるしく進化して、生まれて死んでを繰り返していました。その一方で、彗星たちは太陽の光も届かない場所で何億年もひっそりと眠っていました。そして何かのはずみに地球のそばまでやってきて、私たちに天体ショーを見せてくれているのです。ちょっと宇宙と果てしない時間へのロマンを感じませんか?

では、次に彗星がやってくるのはいつでしょうか。実は、よく分かっていません。というのは、彗星はとても小さいです。そして太陽の近くまで来ないと光りませんし、尾を引きません。そのため見つけることが非常に難しいのです。ですから、突如として大彗星がやってくるかもしれません。
その彗星が人々を魅了する神秘的な天体ショーになるかもしれませんし、もしかすると恐竜を絶滅させたように、地球に激突して終焉をもたらすかもしれません。人類は科学技術を発展させ核兵器を開発し、万物を支配できる力を持っているつもりでいますが、致命的になりうる彗星による災害を、予期することも、抗う術も防ぐ力もないのです。私たちが今日まで生き延び、文明を発展させてこられたのは、単に運に恵まれていただけなのです。私たちの文明はあまりに無力で未熟なのです。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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