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科学で毎日を楽しくしませんか?

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

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第12回 飛行機からパラシュートを使って脱出できる?

2016.12.29 更新

私は出張や旅行で頻繁に飛行機を使います。先日、出張で大荒れの新千歳空港に着陸したのですが、飛行機があまりにも揺れたので、滅多にあることではないとわかってはいたものの、落ちるのではないかと肝を冷やしました。
仕事先に着き、打ち合わせ相手に、飛行機に揺られてひどい目にあったと話したところ、こんな質問を受けました。
「飛行機には、なんで非常用のパラシュートがないのでしょう? 墜落しそうなとき、パラシュートを使って飛び降りれば安全に脱出できるのではないのですか?」と。
普段私たちが利用している飛行機には、非常用パラシュートは搭載されていません。しかしなぜ搭載していないのでしょうか。パラシュートを使って飛行機から脱出することはできるのでしょうか?
今回は、そんな飛行機の「なぜ?」をお話します。

飛行機に乗っているときに、揺れて不安になるのは、大体離着陸前後ではないでしょうか。実際、航空機事故のほとんどは離陸の3分、着陸の8分に集中して起きています。合計11分、この時間は「魔の11分」と呼ばれ、パイロットがもっとも緊張するそうです。
では、この事故の多い離着陸時に、パラシュートで脱出できるか考えてみましょう。
離着陸時の墜落は、わずか数秒で起こります。あまりにも時間がありません。パラシュートを装着する余裕もないうちに、墜落していきます。
もし運よく飛行機から脱出できたとしても、問題があります。パラシュートで降りるためには、500~1,000m程度の高さが必要です。しかし離着陸時は高度が低いため、飛び降りてもパラシュートを開くことができず、地面にぶつかってしまいます。
離着陸時の墜落事故では、脱出してパラシュートを使うより、墜落しないよう努力することが、助かるための最善ということになります。

では飛行機が高い高度を飛んでいるときであれば、パラシュートは役立つのでしょうか。
飛行機は離陸後、高度を上げ、一定の高さまでいったら水平飛行をします。水平飛行時は安定しているので、ドリンクのサービスを受けたり、トイレに立つことができます。飛行機は、この水平飛行をしている時間がもっとも長いです。
水平飛行時の高度はおおよそ10,000mです。高度10,000mというと、世界最高峰であるエベレストの8,848mよりも高いです。エベレストは空気が薄く、登山家ですら何日も体を慣らしながらでないと登頂することができません。
高度10,000mはそのエベレストよりも遥かに過酷です。突然そんな環境にさらされたら、どんな人間でも一瞬で気絶してしまいます。ですから、高度10,000mの飛行機から脱出するのは、現実的ではありません。
高度10,000mから空気のある高さまで下がったところでパラシュートを使って脱出すればよいとも考えられますが、墜落しそうな飛行機にゆっくりと飛んでいる余裕はありません。そんな余裕があるときは、そのまま近隣の空港や、海上に不時着できますので、パラシュートの出番はないのです。

離着陸の前後、水平飛行をするまでの間ではどうでしょうか。
高度4,000m以上は人間にはあまりにも環境が過酷ですから、高度10,000mの場合と同じことになるでしょう。パラシュートが使える可能性があるのは、高度4,000m以下、1,000m以上です。しかし、この高さでもパラシュートの使用は難しいのです。

過去にこんな話がありました。
あるフライトでハイジャックが起こりました。ハイジャック犯は乗客の金品を強奪し、扉を開けてパラシュートで脱出・逃亡したのです。脱出してしまえば捕まらないと考えたのでしょう。
しかし、ハイジャック犯は遺体で発見されました。死因はパラシュートがうまく開かなかったことによる衝突死でした。
パラシュートを使うことは、想像以上に難しいのです。実際パラシュートを扱えるようになるまで、おおよそ200時間のトレーニングが必要だそうです。自動車免許の技能教習(AT限定)が31時間ですから、パラシュートの200時間は相当なものです。
緊急時の脱出を想定して、乗客全員に200時間のトレーニングというのはあまりに非現実的ですが、仮に義務付けて、事故の際に飛び降りたらどうなるでしょうか。
飛行機に300人乗っていたとして、10秒間隔で飛び降りたとしたら、全員が降りるまで50分かかります。飛行機は50分安定して飛んでいられるなら、近場の空港まで行くことができます。
また、パニックの中で飛び降りるのは危険です。さらに、降りた先が安全だとも限りません。訓練を受けたパイロットに任せた方が生存率は高まるでしょう。パラシュートは現実的ではないのです。

あってほしくはありませんが、非常事態に遭遇したら、乗務員の指示に従い行動するのがもっとも安全な方法です。最善を尽くしてくれるでしょう。そのお陰で飛行機の事故は自動車よりも遥かに低く、0,00005%程度です。飛行機って、とてもよく考えられているので、安全に運航しているのです。

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著者プロフィール

岩谷圭介(いわや・けいすけ)

民間初の日本国内における上空30kmの撮影に成功。その後も開発を進め日本一の打上げ回数・成功率・世界最高高度記録を樹立。世界最高水準の技術を確立する。国内様々なTV・新聞・雑誌に取り上げられCMや広告にも起用されている。 技術は独力により開発。始まりは大学4年の夏休み、海外のニュースサイトで見た1枚の写真だった。 個人レベルの資金と身の回りの素材を使って切り開いた宇宙開発『ふうせん宇宙撮影』を通じて宇宙を身近に感じてもらうこと、挑戦する気持ちを広げていくために活動している。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。 世界一小さい僕の宇宙開発』がある。

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